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「結」 
「越海コシノウミの 角鹿ツヌガの浜ハマゆ 大舟オホフネに 真梶マカチ貫ヌき下オロし いさなとり 海路ウミヂに出イでて あへぎつつ 我ワが漕コ(手扁+旁)ぎ行ユけば 丈夫マスラヲの 手結タユヒが浦ウラに 海未通女アマヲトメ 塩シホ焼ヤく炎ケブリ 草枕クサマクラ 客タビにしあれば 独ヒトリして 見ミるしるしなみ 

綿津海ワタツミの 手テに巻マかしたる 珠手次タマダスキ 懸カけてしぬびつ日本ヤマト島根シマネを…」
 
この集歌の解釈に、別段、笠朝臣金村という人物の都を思うおもいに同情したわけではない。ただ、この歌に出てくる、耳慣れた「手結タユヒ浦」という地名と「炎ケブリ」という言葉が、すこし関心を引いたのだ。

万葉集の歌には、難訓歌と分類される歌がある。本当に「難訓であるもの」と「文字の意味の解釈で難訓の分類されたもの」だそうだ。そして、この歌は、「炎」という文字の読み方次第で、その歌われた情景が変わることから難訓歌とされるのだという。

つまり「炎」を、さきに記されたように「ケブリ」と訳すか、それとも「ほむら」や「かげろひ」など、現代人の感覚にちかい理解に捉えるべきかということだ。なぜなら「ケブリ」には、いわゆる「大和歌」の理解に、それを遠くから眺めるときに伴う距離感も捉えられるのだという。そして、だとすれば、この歌は「真梶マカチ貫ヌき下オロし…」船の上から、手結ノ浦の「海未通女」の塩を焼く「煙」を眺めることになる。

つまり、それではその「綿津海ワタツミの 手テに巻マかしたる 珠手次タマダスキ…」が見えないのではないか。金村は上陸して、「海未通女」とともに塩焼く「炎」を前にしていたのだと解して…。その「海未通女」の腕に巻かれた「珠手次タマダスキ」に、はるかな都が思われたのだと考えれば、その情景が解りやすいのだと…。

まあ、しかし、じつを言えば、万葉集の歌の解釈などに興味はない。ただ、ここ上津に暮らすようになって、日常的に目にする野に雑草を焼く煙の「くよし」という呼び名が気になっている。だけに、「炎ケブリ」という言葉がすこし関心を引いたのだ。

また、「手結タユヒ浦」という地名である。「浦」とは、風待ちのための港を意味する。つまり、越の角鹿を出航した金村は、風待ちのために「手結タユヒ浦」に入ったのだろう。

そして、この浦は、「懸カけてしぬびつ日本ヤマト島根シマネを…」の島根という言葉に、島根半島の「手結ノ浦」を思うことが許されるのだろうか。

この「手結ノ浦」という地名は、いわゆる「網元制度」以前の集団的な漁労の形態を伝えるのだそうだ。つまり、地域資源としての海は、特定の誰かに資するべきものではなくて、その「浦」に暮らすすべての人々が共同・協調して共有するという、考えれば当然の社会倫理にもとづくシステムと理解するべきものだ。例えば、「地引き網漁」などは、その原型をいまに伝えてくれるのかも知れない。つまり、誰もが関われる程度の技術が大切にされ、関わった者すべてに、その収穫は平等に分配されるのだ。

ちなみに島根半島の「手結ノ浦」は「たいのうら」と読む。そして、手を結び共同体として漁労に暮らした人々は、すでに「出雲風土記」には記されているのだ。また、この「たいのうら」という地名は、全国の浦々にその数が多い。ときに「手結港」であったり、その読みから「鯛ノ浦」という文字が当てられたりしているが、その意味するところは同じなのだろう。

つまり、いわゆる「弘法大師」の伝説など馬鹿げた話なのである。

そして、この「手結」を「結(ゆい)」として、これを見れば、かつて全国に当たり前にあった共同体としての農山村の地域経営のスタイルが見えてくる。田植えや稲刈り、様々な暮らしの行事のすべてが、この「結」にもとづく認識によって営まれてきたはずである。

ちなみに、我が焚き火小屋の前の「斐伊川」には、「出雲結」という名前の治水のための古い土木技術が伝えられる。これは、その名前が示すように、この地に暮らした人々が、あの「ヤマタノオロチ」の伝説までを生んだ暴れ河「斐伊川」を、共同して制御した事実を伝えることに他なるまい。

つまり、「結」とは、海だけではなくて農山村にも、人々が、地域に共同体として暮らすことを意味する言葉として伝えられるのだ。

ちなみに写真は、美しい島根半島の七十七浦の一つ「赤浦」での「しまね自然の学校」の子どもたちのキャンプのシーンだ。かつて、名刹「一畑薬師」の本尊が顕れた伝説を持ち、その奥の院とされた海でもある。

数十メートルの険しい断崖に囲まれ、濡れると不思議に赤い拳大の砂利だけの、じつに豊穣にして美しい海でもある。

ここでの子どもたちは、かつて、この地域の人々と同じように「手を結び」共同して、何ものにも縛られないキャンプを楽しむのだ。



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